こんにちは!つじもん@tsujim0nです。
先日、『 好きな邦画ランキング50』という記事を書いたんですが、まだまだ全然書き足らん!!ってことで、改めて観た映画を1つずつ紹介してきます!!
まず1位からだろ!ってツッコまれるかもしれませんが、今回は14位の『しとやかな獣』(1962年公開)を。と、言っても第1位の『幕末太陽傳』でメガホンをとった川島雄三監督の代表作の一つなので、これも強烈に面白い。そしてクッソ楽しい。昭和30年代前半の“とある家族の欲望”が描かれたブラックコメディの怪作です。(好き嫌いは激しく別れそう)
『幕末太陽傳』は、白黒映画で昔の言葉もふんだんに盛り込まれた時代劇ですが、『しとやかな獣』はそうじゃありません。映像もギリギリカラーの現代劇。なので、あんまり古い映画に慣れてない人でもすんなり観れるので、コチラもおすすめです!!今観ると、少し古臭い雰囲気が漂っている気がしますが、それもご愛嬌。高度経済成長期独特の風情がただよっています。
で、『しとやかな獣』でも、川島監督ならではの相変わらずなブラックユーモアが炸裂。そんで、笑えるけどちょっと背筋がゾクゾクするような怖い世界観に。でもそこがクセになる。鑑賞後には、ほかの映画では決して味わえない未知なる体験があなたを襲います。
てことで、前置きはこのへんにしておいて、今回の記事では見どころや面白かったシーン、そして注目するべき点などをレビュー。前半はネタバレなしで、後半はネタバレありの考察も含まれるので、まだ観ていない方はご注意ください。とにかく、もしこれだけの怪作を見逃しているのであれば、確実に悔いが残るということだけ伝えておきます。
映画『しとやかな獣』のあらすじは??
舞台は、とある団地の一室。そこに暮らす元・軍人(伊藤雄之助)一家がこの映画の主役たち。そんな一家の夫婦がコソコソと部屋を模様替え中。ん?どういう流れ??って場面からいきなりスタートします。
と、思っていたら、息子(川畑愛光)が会社の金を横領して、社長がもうすぐ怒鳴り込みに来るっていう展開に。だから「横領した金で買った家具調度類家電製品は隠さなくっちゃ」って、お前www
んで、社長は自分の事務所のタレントと経理担当女子社員(若尾文子)と一緒に、アパートに乗り込んで来る。それに対し、元・軍人の父は「息子に限ってそんな事するはずがゴザイマセン!(ゲス顔)見ての通り、我が家は私の事業の失敗で困窮しておりますし(ゲス顔ダブルピース)」と弁舌も爽やかに言い訳していきます。(ここが痛快に笑える)
ところが、この横領事件の真の黒幕は、ほかにいた!!なんとそれは……!!(ここは秘密)って感じの作品。女の野望と女を巡る男達の肉欲が、団地の1室だけでスパークするブラック・コメディの名作!!
一体、この家族はどうなるのか??そして若尾文子の運命やいかに!?ってところに注目を。これ以上は重要なネタバレをしてしまいそうので、是非とも本編で。色々とオモシロな展開の連続で、もう色んな意味で“しとやかな”作品に仕上がっています。
ここからは、すでに鑑賞済みの方向けです。ネタバレを含むので、ご注意ください!!
出て来る奴らが全員悪人なキャラクターたちに翻弄されろ!!
まず、この映画を語る上で欠かせないのが、『アウトレイジ』もビックリの全員ワルなキャラクターたち。
男どもはトコトン女性と体の関係を持つことしか考えてないし、女はお金のことで頭がいっぱい。でもそれが本来の人間の姿のようで、笑えるけどムダに現実味があって背筋がちょっとゾクゾクする。
若尾文子の悪女っぷりが最高!!
その中でも、主演・若尾文子の“しとやかな”存在感が、素晴らしくも美しくもあり、そしてめちゃくちゃ恐ろしい。今やソフトバンクのCMで「おばあちゃん役」として出演している彼女ですが、過去にこんな怪作があったとは……。完全に“予想外”でした。
若尾文子は、今までの川島作品『雁の寺』でも出演していて、こういう悪女役で本領を発揮。今作では、まさに“しとやかな獣”そのものを見事に演じきっています。
そんで、ボクがそんな彼女の一番好きなシーンは「お前のためお前のためって。それはみんなご自分のためじゃなかったんですか??ご自分の??」って言うところwww もし付き合っている彼女にコレを言われてしまったら、ボクはもう何も言い返せないwww まさにそのとおりだと思ったし、男の醜い欲望を一括するなんとも破壊力バツグンの名ゼリフになっています。実にお見事www
今回の少し独特な髪型は、スタイリストの方が考えたのではなく、ご本人がセットしたものなんだとか。(ご本人はあまり気に入ってなかったみたいですが)
伊藤雄之助と山岡久乃の名コンビも素晴らしい
そして、伊藤雄之助をはじめとする1癖も2癖もある超個性派名優たちの“家族”にも注目です。特に伊藤雄之助と山岡久乃のコンビが奏でる間抜けっぷりが最高。
息子が若尾文子に攻められるも、すかさずフォローする2人。そして全くもって心がこもっていない「息子がそんなことをするはずがございません」というセリフがシュール。超シュールです。自分の親にもあんな感じで、同じことを言われていたら泣きますwww
団地の1室だけの密室劇を、カメラワークで魅せていくのが上手い
そして、この映画がほかの作品と一線を画しているのが、コレ。97分間丸っとするっとほぼ全部が、とある団地の1室だけで繰り広げれていきます。にも関わらず、全くもって飽きません。もはや「舞台」や「演劇」を観ているような感覚に陥るはず。
で、これだけミニマルな世界で、次々にストーリーを転がしていくうまさはカメラワークの妙。これが、この作品の完成度を何倍にも引き上げています。
というのもカメラマンには、「瘋癲老人日記」で有名な宗川信夫を。なんともトリッキーな撮影が特徴的な方です。
だから、普通ではありえないような角度から団地の1室を映していきます。例えばベランダの外、天井からのフカン、床から真下のショット、便所の奥からなどなど。当時のカメラは今ほど小さいものではなく、かなりの大きさだったはず。
なのでカメラのポジションを確保するために、おそらく天井や壁をぶち抜いていたりと、かなり手が込んでいます。ほぼ360度すべての角度を駆使し、全く同じ1部屋とは思えないカメラワークの工夫やアイデアが実に素晴らしい。
ここに川島監督の凄みというか、長年に渡り天才と呼ばれる理由がある気がします。おそらく全く同じ脚本で、ほかの監督がこの映画を撮影していたら、ここまで完成度のものになっていなかったでしょう。
新藤兼人による巧みすぎる脚本はいつ観ても脱帽
また脚本があまりにも巧妙に練り込められているため、ドンドン映画の世界に引きずり込まれます。例えば、序盤のシーンでは何の説明もなくいきなり部屋の模様替えを始めたり、正体不明な男性(税務署でクビにされた船越英二)が突然部屋に飛び込んできたり……。
謎が謎を呼ぶ展開の連続で、常にこれから先起こる展開を推理させられるので、ほとんど休む暇がありません。またダムが決壊し、洪水のように押し寄せてくるセリフの膨大な量もすばらしい。
内容には一切ムダがなく、それでいて痛快。終止そんな展開の連続なので、はじめて観たときはこの脚本のスゴさに激しく脱帽でした。
あの白い階段のシーンは何を表していたのか??
作品のところどころで、登場人物たちが「白い階段」を登るシーンが合計3回あります。それぞれ書き出してみると……。
- 若尾文子が階段を登るシーン
- 高松英郎が階段を降り、入れ替わるように若尾文子が階段を登るシーン
- ラストに船越の自殺を受けて大勢で階段を降りるシーン
で、この階段は一体何を表しているのか?? それは間違いなく登場人物たちの内面を表しているのでしょう。
若尾文子が新しい旅館をオープンさせて階段を登るシーン。これは言うまでもなく人生が好転していく彼女の心情を表したもの。
その次に高松英郎が階段を降り、入れ替わるように若尾文子が階段を登るシーン。ここではそれぞれの人生での立ち位置が入れ替わったことを巧みに表現しています。若尾は旅館が軌道に乗り始め、高松は汚職がバレた心理描写でしょう。
んで、ラストの船越英二が自殺したシーンでは、大勢が階段を一気に降りています。そしてその中には、若尾文子の姿が。これは税務署で働いていた「船越の死」によって、彼女の人生が終わったことを表しているのでしょう。
ところがラストの階段のシーンでは、前田一家(伊藤雄之助たち)の姿はありません。計算高い山岡久乃が警察に根回ししていたため、この一家は無事に終わったってことを表現している気がしました。作品の中盤で、山岡が「警察にバレても大丈夫ですよ」と言う伏線があったので。
山岡久乃が演じるラストシーンは鳥肌が立つほど怖い
そして、この映画がただのコメディ映画でなく、ブラックな作品に仕上がっているのがラストの展開のせい。ここがとてつもなく強烈です。
山岡久乃が、自殺した船越英二を見たにも関わらず、無視して見なかったことにする……。なんというかここに女性の本当の怖さというか、真の“しとやかな獣”が描かれている気がした。
あたかも若尾文子が、今作での“しとやかな獣”のように見せかけておいて、実はそうじゃなかった。上には上がいる。色んな意味で“しとやかな獣”は完全に山岡久乃だった。(とボクは感じた)
DVDのパッケージでも若尾文子が大きく印刷され、当時のポスターなんかも若尾!若尾!若尾!の若尾押し。だから、観てるときは若尾こそ「しとやかな獣」だと思ってた。でもそれは全部ただの“オトリ”。マジでヤバイ奴は山岡久乃だった。これにはラストで予想を大きく裏切られた。もちろん良い意味で。
獣はビックリするほど、すぐ近くにいたんだなと痛感。んで、こういうのが現実世界でもありそうで、深読みすれば深読みするほど闇にハマってしまう。
だからこそ、ラスト1カット(団地のフカン映像)の余韻が果てしなく怖い。そこから逃げ出せない閉鎖感とか、それに気付いていない家族のことを考えると激しく恐ろしい。「団地=オリ」だとすると「山岡久乃=獣」なので、「獣と一緒にオリに閉じ込めれた」ようなもの。この絶妙な余韻はマジで恐るべし演出センス。
そんで、ラストの展開を頭に入れてもう一度作品を観なおしてみると、山岡久乃はどんな状況でも目は笑ってない。さすが。2回目以降は、作品全部の印象が変わってくる。こええよ。マジで。
鬼才・川島雄三監督が描きたかったものは何か??
この映画で川島監督が描きたかったのは、おそらく2つ。まず1つ目は、高度経済成長の副産物に対する皮肉。
映画に登場するのは、変なやつらばっかり。例えば、小沢昭一が演じる当時よくいたであろう金髪かぶれの下手っぴな歌手、山茶花究は当時テレビ番組を我が物顔で出演していた流行作家、銀座を飲み歩きそれをネタにして小説を書いていた連中です。
当時はそんなやつらがわんさかといたのでしょう。(たぶん) そしてそんな彼らは、あぶく銭を稼いで大金を手にしています。川島監督はそんな彼らに「生きてて恥ずかしくないのか??もっと良いものを創ろうぜ」ってことを言いたかったんだろうと感じました。
その反対に唯一“普通”の人間だった船越英二は、そんな世の中に耐えられなくなってラストで自殺をおこなってしまう。なんというか「まともな人間は死ぬしかない」という川島の激烈なメッセージ性は今観ても強烈。
そしてもう1つは、人間の本質ーー男性は性欲、女性はお金には目がない獣だってことを言いたかったのでしょう。男はセックスのために、女はお金のために手段を選ばない。それをこの作品ではこれでもか!ってくらい何度も描写していきます。
若尾文子の魅力に取り付かれた男たちは、いくどとなく彼女を自分のものにしようとする。でもうまくいかない。これに関しては全然“しとやか”じゃないwww
それに対し、若尾文子は自分の旅館を建てるために、自らの体を売ってまでお金を求めます。お金のために犯罪を犯すことも躊躇しないあたりが、男どもとは異なり“しとやかさ”を感じました。
これらを総称して「人間=獣」ってことを表しているのかなーって感じでした。
つじもんのまとめ
川島監督の作品は、今回紹介した『しとやかな獣』、そして『幕末太陽傳』と『洲崎パラダイス 赤信号』が激しくおすすめ!!
『しとやかな獣』は、観た人によって捉え方が変わってくる作品だったので、思い切って記事にしてみました!!とくにボクの解釈が全部正解してるわけでもないし、間違っている部分もあると思うのでご了承を。映画鑑賞後の一つの読みもの的な感覚でどうぞ。
冒頭にも書きましたが、かなり好き嫌いに別れる不快指数100%の作風なので、これから観る際には覚悟してください。
それでは、また次の記事でお会いましょうー。おしまい。